結婚・夫婦生活について ~特集 若いリウマチ患者へ
(流 No.213,pp.7~11,2001)
|
人生とは出会いであるといいます。その意味は?「人と出会うことは人生で最も大切なことです。なぜなら、私たちはそれぞれ、たった一つの存在だから」(朝日新開・夕刊『窓』より)。これは、アマゾンのある先住民族のリーダーの言葉だそうです。
結婚とは、「血のつながりのない一番近い大事な存在」(リウトピアの外来へみえる、ある患者さんの手紙から)と出会い、お互いに夫婦になることです。そして、夫婦としての日々の生活が、即ち、人生という旅を続けていく、ということになります。その旅は、夫婦二人の舵の取り方によって、それぞれの航路を措いていくのです。
自然に四季(春夏秋冬)があるように、人生にも四季があります。なかでも青春時代つまり、青年期は、人生でも、生き生きと、明るく、輝く“季節”です。
まさに、この頃に、リウマチが発病する年代のピークの一つがあり、20代と30代を合わせると、全体の約三分の一にもなります。
20・30代は、人の一生のサイクルの中で、一般的に、恋をし、愛を語らい、結婚を決意し、子供も出来、と、その後の大人としての自分の人生を歩み出す時期です。(しかし、これ、以前までの「多くの人々」の意識で、最近のある調査では、「結婚適齢期はない」という意見が増えてきていて、約20年前の二倍近くという調査-読売新聞社-もあります。)
いずれにしても、20・30代での「リウマチ療養生活と、結婚・夫婦生活」を“共生”することには、大変なエネルギーが必要です。そして、そのエネルギーを絶えず産み出し、“旅”を続けさせるのは、夫婦という二人の信頼と努力なのです。
以上、はじめに総論的なことを述べましたが、より具体的・実際的なアドバイスができればと考え、患者さん達に簡単な調査をしてみることにしました。3月3日以降、外来診療時に直接お願いしたり、思い出すままに名前が浮かんだ患者さんにお願い文とともに郵送し回答を返送していただくこととしました。一週間という短期間ながら、19名の方からご回答をいただき、その集計と内容の検討を通して、本題について考察をすすめることにしました。
外来でのアンケート調査
1 未婚の方へ
Q1. あなたは結婚を望みますか
Q2. Q1にて「はい」の方へ 相手は決まっていますか
Q3. Q2にて「はい」の方へ 相手の方はあなたのリウマチについて理解していると思いますか?
Q4. 子供を希望しますか
2 既婚の方へ
Q1. 結婚されてどれ位ですか
Q2. お子さんはいますか
Q3. Q2にて「いいえ」の方 いらっしやらない理由
Q4. Q2にて[はい」の方 育児での不安・悩み・問題点
3 既婚・未婚いずれの場合でも
Q5. 結婚生活への不安・悩み
Q6. 夫婦生活への不安・悩み
Q7. リウマチへの不安・悩み
Q8. その他の不安・悩み
Q9. あなたの夢・希望
アンケート調査結果 (回答19名)
「未婚」10名(うち男性1名) 「既婚」9名(うち男性1名)
平均年齢
「未婚」32.7歳(23~41歳) 「既婚」35.6歳(30~43歳)
平均罹病年
「未婚」9.1年(1.7~21.2年)
「既婚」7.9年(0.9~18.3年)
結婚と発病時期
「結婚前」2名 平均6.9年(4.3年~9.4年)
「結婚後」7名 平均3.6年(0.9年~7.2年)
「未婚」群10名)の回答から
Q1. 結婚希望について
「はい」6名 「いいえ」3名 「どちらでも」1名
「いいえ」の理由は、「リウマチである自分を維持するだけで精一杯なため」「家事や育児に自信がない」「相手の理解が得られるか心配で」
「どちらでも」は「相手ができたらしたいが、できなくてもそれなりにシングルライフを楽しみたい」
Q2. 決まった相手がいますか
「はい」1名、「いいえ」5名
Q3. 子供を希望しますか
「はい」3名 「いいえ」4名 「どちらでも」3名
「いいえ」の理由は、「子供を育てる自信は今のところない。この先はもっと不安だし、自分のことで精一杯」「欲しい気持ちはあるが、産後、病状の悪化を考えると怖い」
「どちらでも」の理由は、「体力や痛気のことを考えると自信がない」「(欲しいが)現実的に考えれば、(薬の)副作用とかで、無理です!」
「はい」の1人も「リウマチの根本的原因が解明されていない今は、子供に遺伝するのではないか」と不安を述べている。
Q5. 結婚生活への不安・悩みは
10名のうち9名が、パートナーやその周囲の人々に、リウマチが理解されるだろうか、受け入れられるだろうか、という不安を持っている。相手や子供(家族)に負担をかけてしまうことを心配し、さらに、パートナーや身内に何かあった場合に「自分のできることの限界」に悩み、家事ができないことを今から心配している。
Q6. 夫婦生活への不安・悩みは
10名のうち3名が股や膝の人工関節との関係で、脱臼や、出産時に可動制限が障害にならないか、という不安を持っている。また、「体調の悪いときの断り方」に悩んでいる人もいるが、それ以外は「今のところ不安はない」「考えたことはない」ようである。
「既婚」群(9名)の回答から
Q2. お子さんはいますか?
「はい」7名 「いいえ」2名
「はい」の7名のうち、1名だけが結婚(1年7か月前)前の発痛(約6年前)で、妊娠を希望されたあと、使用薬剤を調整し、無事出産。
Q3. 子供のいない理由
2人のうち、1人は流産で、1人は抗リウマチ剤の内服中のため、「今はまだその時期ではないと思っている。身体的に妊娠出産が可能な状態に落ち着いたら、子供は欲しいと思っている」
Q5. 結婚生活への不安・悩みは
痛みのため「家事に時間がかかる。炊事が思うようにできない」悩み。転勤族の夫と離れ、治療のために実家で過ごしているが、「これからどのような形で結婚生活をしていけばいいのか」「私と結婚したことで、(夫に)心配をかけ、つらい思いをさせ、申し訳ない気持ちでいっぱい……」 「今は主人に支えられ、手抜きだらけの主婦(業)ですが、私にできることを私なりに頑張ろうと思っている」とのこと。
「リウマチ診断が結婚後、また、第一子出産後だったため、主人は初めから私の様子をずっと見てくれているので、今は一番の理解者で協力者です。本当に感謝の気持ちでいっぱいです」。
Q6. 夫婦生活の不安・悩みは
「相手に精神的不安を与えているのではないか」という心配、「もう一人子供が欲しいなあと思っていましたが、病状が変化してしまい、あきらめました。薬を飲んでいるので避妊に気を使いました」「痛みが強いときには、そのような気分になれないことも、夫には悪いと思うが……」「夫が病気について理解してくれており、何かと気遣ってくれるので今はとても助かっています」。
リウマチと結婚生活
結婚生活を送るうえでの不安や悩みは、未婚者・既婚者ともほぼ共通で、
①配偶者が理解し、受け入れてくれるか(その家族はどうだろうか)
②痛みや関節機能障害で、家事が困難になり、家族の負担が増すこと
⑨自分の障害の進行や配偶者やその家族が病気になった場合のこと。
などが主なものと考えられます。
パートナー(配偶者)の受け入れを心配し、家事などで家族へ気兼ねすることについては、『2000年リウマチ白書』(リウマチ友の会)をみれば、少しは安心するはずです。
「夫・妻がやさしくなった」と「影響なし」とで、50~60%にもなり、一方、「夫婦生活が困難に」と「離婚」とで17.2%でしかないからです。
「20代64%」、これは、今年2月の読売新聞社の全国世論調査での、「場合によって離婚もやむを得ない」「離婚したいならすればよい」、の離婚容認派で、女性全体での容認派(51%)が、否定派(48%)を上回っています。このように、"一般的"な数値と比べてみて、リウマチを抱えた夫婦が、むしろ、リウマチを絆(きずな)にして、いかに強く結びついているか理解されると思います。
その他の不安 (パートナーがリウマチを理解することや、家族による家事の分担など) は、許し合いを重ねることで解決できることであり、パートナーの決意さえゆるがなければ、パートナーの家族の同意も、最終的には得られると思います。その他 (パートナーやその家族の病気のこと……)は、大切なテーマですが、問題を抱えこまないことです。
リウマチと夫婦生活
夫婦生活を送るうえでの不安や悩みも、未婚者・既婚者ともほぼ同じで、
①妊娠した場合、子供に対する遺伝の影響、内服薬の副作用のこと
②人工関節が、出産時や性交時(脱臼などの)障害にならないか?
③痛みが強い時や体調が悪い時の、パートナーの「希望」への対応
などが主なものです。
妊娠および子供のことに関しては、別項の専門医による解説を参考にしていただきたいと思います。
人工関節、特に膝関節や股関節の場合で、しかも、両側とか、膝と股の両方などの多関節手術を行っている場合、多少とも注意が必要です。膝関節については、直角以上の屈曲にならないようにしなければいけませんし、股関節については、手術のために、無理に脱臼させる操作がありますが、無意識にそれに近い動き(※)をしないように注意すべきです。
※膝と股関節を曲げ、下肢を外方に回旋している時に、はずみで、大腿を内方に回旋させつつ、内側に押してしまう動作
いずれにしても身体的なテクニックは、夫婦で工夫すれば十分に解決できます。参考書も幾つかあります。
問題になりうるのは、痛みが強い時や疲労感の強い時期に、パートナーの求めに対して、"そういう気分になれない〟ことをどのように理解してもらうかです。
しかも、そうしたことがたびたびの場合は、大きなストレスとなり、そのことがさらにリウマチの症状を憎悪させます。パートナーは「通常」以上の「性に対する調整」(エーリッヒ)という試練が課されます。しかし、そのために話し合いを重ねることがお互いに本当の結び付きを強めることになるのではないかと思います。
リウマチと結婚とQOL
リウマチ療養の日々の中で、患者さんが不安に感じているのは、①病気の進行・再発、②薬の副作用や合併症、③日常生活動作(ADL)の低下などが主なものです(『リウマチ白書』)
今回の調査でも「関節のはれや変形が少しずつ進んできているのが心配。いつまで薬を飲み続ければいいのだろう。副作用は?さらに悪化し、日常生活にもっと支障が出てくるのではないか、という不安がいつもあります」という文章がありました。
これらのことに関しては、抗リウマチ剤の進歩が続き、病気の進行・再発の防止と、その薬剤の適切な使用で副作用を起こさず、痛気や薬剤による合併症の発生も抑えることは可能です。また、リハビリテーションを行い、適応があれば、手術をすることで、ADLの向上も可能になっています。すべての人に、100%の満足というわけにはいきませんが、この5年、10年とみてくると、明らかに改善・進歩してきているのがわかります。前の方を向いて、一歩一歩進んでいきたいと希望すれば、リウマチ医療もそれに応えることが、(ようやく!)可能な時期にきたと思います。
結婚およびそれに続く夫婦生活は、前述のような不安や悩みを、患者さん個々人が一つ一つ〝丁寧〟に考えてみて、時には、恋人なり、婚約者なり、夫と共に、主治医と話し合うことで、結婚を決意したり、結婚を維持していくことが可能になると思います。
「結婚の障害になるものはない!あるとすればその人自身の心の中にあるだけ!」
〝あなたの夢・希望〟という設問に対し、痛みや病気の改善、子供や夫とのこと、また、「買い物や旅行」の他に「自立したうえで、老後を一緒に過ごせる人がいたらと思う」という文章がありました。
「重要なのは目的地でなく、人生という旅そのものである」(J・キャンベル)という言葉があります。一人旅もいいけれど、パートナーがいたほうが楽しいという人のほうが多いはずです。
「この病気のお陰で、気持ちが強くなれたような気がする。周りの人に優しくなりたい」という文章もありました。お互いの持てる能力(身体でも心でも) をパートナーに発揮して、「それぞれにできることを惜しみなく与え合う」(吉本明美)、せっかくの一度きりの人生という旅を楽しく歩んでいけたら……。その旅の中でのお互いの協力が、お互いのQOL(人生の質)(生命の輝き)を高めていくのではないでしょうか。
おたより
●一患者より
……結婚のことですが、20代後半で発病してからは、結婚は自分には縁のないものと、考えることも、外に出ることもやめてしまいました。でも去年、手術のため入院して、既婚のリウマチ患者さんたちと親しくなり、ちょっと考えが変わってきました。毎日仕事をし疲れて大変なのに、毎週のようにやって来ては、かいがいしく世話をし、お互いに気遣う姿を見るうちに、肉親以外の存在、パートナーがいるというのは、いいものだな、と感じるようになりました。でもやはり、リウマチを長く患って、今から結婚となると問題は一杯で考えてしまいます。
結婚後に発病したのとはやはり違うと思います。この病気をちゃんと理解して、向き合ってくれる異性がいる、という精神的な安心感は大きいと思います。私はこの年になってやっと血のつながりのない、一番近い大事な存在=夫婦という関係に気付きました。病気だからと出会いも諦めている20代、30代の若い人たちには、早く気付いてほしいと思います。私のように家に閉じこもらず、外(社会)に出て、たくさんの人と出会ってほしいです。そして、一生のパートナーを見つけてほしいと思います。
●一患者より
ストレスをためず、いつもニコニコ笑顔を忘れず、楽しいことを見つけていきましょう。そのうち自分が輝いてくるはずです。リウマチがあっても私たちは皆同じ人間なのです。いつか輝いている自分を理解してくれる人が現れてくるはずです。このように考えれば結婚だってできるはずです。とにかく、自分らしさを失わず、明るくしていれば、怖いものなんかなくなると思います。リウマチに負けず、皆さん、頑張っていきましょう。 |
|
前ページへ戻る |
|